日に日に秋が深まる季節となりましたが、いかがお過ごしでしょうか。
本格的な寒さに向かう時節、風邪など召されませぬようご自愛ください。
さて、先月は病院経営の悪化についてお話ししました。医療施設において検討・改善すべき点はいくつもありますが、その一つひとつについてここからはお話ししていこうと思います。まずは、保険請求の仕組みそのものについてまとめてみました。
日本の医療事務は、特に保険診療を扱う場合、非常に煩雑な仕組みになっています。
第一の要因は、診療報酬制度の複雑さです。日本の診療報酬点数表には数千に及ぶ項目があり、算定要件や併算定の可否、施設基準などが細かく定められています。さらに、2年ごとの診療報酬改定で条件が頻繁に変更されるため、担当者は常に最新のルールを把握し、請求内容を更新しなければなりません。そのため、高度な専門知識と注意力が求められています。
第二に、レセプト業務を支えるシステムの統一性が欠けている点です。医療機関ごとに電子カルテやレセプトコンピュータ(レセコン)などのシステムが異なり、入力方法やデータ構造が統一されていません。その結果、診療録と請求データを整合させるための手作業が多く、自動化が進みにくい状況です。オンライン請求によって一定の効率化は進みましたが、例外処理が残り、完全なデジタル化には至っていません。
第三に、人材の問題です。医療事務は属人的なノウハウに依存しており、経験や判断力によって請求の精度が左右されます。複雑な加算や併算定ルールを理解し、医師に確認するなど現場での判断が多く、教育コストが高いことも問題です。人材の流動性が高まる今では、人員交代による誤算定や請求漏れも雇用側の大きな頭痛の種です。
さらに煩雑さを増しているのが、都道府県ごとの算定基準の違いです。同じ診療報酬体系でも、支払基金や国保連によって査定基準の運用が異なり、「東京では通るが大阪では査定される」といった地域差が存在します。審査側の解釈の違いにより、医療機関は地域ごとの傾向を把握し、請求を調整する必要があります。
このように、制度・運用・人材・地域制度が複雑に絡み合うことが、日本の医療事務を世界的にも特異で煩雑なものにしています。今後はDX化などを通じて、事務作業の自動化・効率化が進むことが期待されますが、それでも多くの手仕事や経験的な作業が残ることが予測されます。人材確保から教育まで、一貫して機能する請求チームの確立がさらに求められています。