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暦の上ではいよいよ立冬を迎えました。
朝晩の冷え込みにお体を崩されませぬようご自愛ください。

 

さて、メルマガ8月号からお話しさせていただいている日本における創薬の問題点、今回は皆さんにも身近な「治験」についてお話しさせていただきます。

 

治験は、安全性を健常人で確認する第一相、至適濃度を確認する第二相、多数症例で効果を確認する第三相の3段階に分かれます。2023年11月の日経新聞に「海外新薬、国内で早期承認へ 日本人の初期治験廃止」という見出しの記事が載りました。それまでは、たとえ海外で安全性が証明されたものでも、日本では必ず日本人を対象とした第一相試験をしなければならないルールがありました。これは、日本人にだけに生じる問題がないかを検証するという謳いでしたが、今時は意味のないプロセスとされ、海外からは極めて不評でした。海外から大きく遅れる薬剤承認を短縮するため、国内での第一相試験を廃止する方針がしぶしぶ了承した形ですが、必要に応じて第一相試験を強制できる余地を残しており、かなりの抵抗があったようです。前進と言えば前進ですが、100ある問題の1つに過ぎず、実効性は乏しいと私は見ています。

 

そもそも日本の治験は、全体として厳しい安全性を担保するため、多くの煩雑なプロセスや書面のやり取りが行政との間に必要です。これ自体が、治験が進まない大きな理由の一つとされています。
しかしこの問題は行政側だけでなく、医療側にも原因あります。昨今の治験は公平性や透明性等を維持するため、国際的な臨床試験の実施基準であるICH-GCPに準拠して行われます。この厳しいルールのもとで治験が行われるため、手続きや同意取得、書類作成などに多くの人的資源が要求されるのですが、日本の病院は数が多いものの一施設あたりの規模が小さく、慢性的な労働力不足です。私の職場でもCRC含めコメディカルスタッフも常に求人中という状態でした。ただでさえ業務に忙殺される医師が、このような環境で時間と手間のかかる治験にかまっている余裕はありません。

 

さらに、時間を削って治験を行ってもインセンティブがない施設が多く、これが医師のモチベーションを下げます。加えて、零細施設が多いということは患者さんも分散するため、より多くの施設が必要となり、その分製薬会社の人的コストが増大します。このように高コストの割に治験が進まないというジレンマが、日本の治験が世界から見捨てられる要因となります。
また、治験を受ける患者さんにも原因があると言われています。日本は国民皆保険制度があり、世界的に見ても類を見ないほど安価で高度の医療を誰もが受けることができます。今までと全く違う画期的な新薬であれば別ですが、すでに治療薬がある場合、リスクを冒してまで新しい薬の治験に参加しようという動機が低いと言われています。例えば偽薬(プラセボ)がある場合、賭けに出てあまり効かない治療を投与されるよりは、効果が多少劣っても安全性やそれなりの効果が既存薬で期待できれば、それでいいじゃないかという話になってしまいます。特に安全性に敏感な日本人は、新薬を嫌う傾向にあります。

 

このように行政、医療、患者の3者すべてに問題があり、日本の治験は世界で軽んぜられるようになりました。この解決はなかなかに難しいと思います。今後、どういった方策で解決を試みるのか、思い切った施策の転換がない限り、困難と思われます。

 

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医療法人恭青会

理事長 生野 恭司
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