夏が終わり秋の涼しさを感じる季節となりました。
日ごとに秋が深まってまいります。どうぞお健やかにお過ごしください。
さて、未曾有の苦境に立たされている日本の製薬業界ですが、これは構造不況という作り手側だけの問題ではなく、安定供給の危機という形で消費者側にもしわ寄せがきています。前回は、新薬開発を担うベンチャー企業が育たない今の日本では、そもそも創薬機能が働かず新しい薬を作るという意識が激減しているという現状についてお話をしました。今回は、その次の段階である「承認プロセス」について見ていきましょう。
皆さんは「ドラッグ・ラグ」や「ドラッグ・ロス」という言葉を聞いたことがありませんか?
過去にメールマガジンで取り上げたこともありますが、海外で承認された薬が日本では遅れて承認されることを「ドラッグ・ラグ」、そもそも使えない状態を「ドラッグ・ロス」と言います。(ドラッグ・ラグについてはこちらをご覧ください。)
例えば2010年から2021年までに米国FDA(Food and Drug Administration)では481品目の新薬が承認されました。そのうち欧州では68%が使用可能であるのに対し、日本では47%しか使用できません。つまり、日本では国際的な新薬のうち半数以上が、いまだ使用できないのです。
その一因として、審査側の処理能力不足が挙げられます。米国FDAの新薬審査部門には約3,000名の職員がいるのに対し、日本の独立行政法人 医薬品医療機器総合機構(PMDA)は約300人程度と、非常に悲惨な状況なのです。ただ、私は担当部署のリソース不足だけが問題だと思っていません。むしろ、米国の10分の1の職員しかいないPMDAはよくやっていると感心しています。実は、PMDAの事務作業能力といった単純なものではなく、もっと構造的な問題があるのです。
新しい薬ができても、それを販売するには有効性や安全性を証明しなくてはなりません。そのために行われるのが「臨床試験」です。日本の場合、新薬承認には「日本人を対象とした臨床試験」が必須とされています。グローバル化を迎えた昨今の製薬業界では、できるだけ多くの国々で売りたいため、各国で別個に試験をするのでなく、「国際共同治験」という謳い文句のもと、世界同時並行で臨床試験を行うことが増えてきました。この試験を日本で行うということは、日本での承認を目指しているという証拠であり、新薬が近いうちに使用可能になるということを意味します。
しかし残念ながら、国際試験における日本の占める地位は年々下がってきているのです。ここ10年間の日本が組み入れられた国際共同試験数は、米国の1位を筆頭に世界各国の後塵を拝し世界28位という悲惨な結果でした。これは欧米だけでなく、韓国など他のアジア地域よりも少ないもので、世界の製薬会社が日本のマーケットを重要視していない証左でもあります。
国際試験への組み入れ率低下は、何らかの理由で製薬各社が日本での販売を断念していることを意味します。では、なぜ日本では「治験」と呼ばれるこれらの臨床試験が敬遠されるのか?次号では、日本における承認プロセスの中でも最も根幹的な部分である臨床試験の在り方や、問題点についてさらに深堀していきます。
出典:
・日本産業政策研究所;ドラッグ・ラグ:日本と欧州の未承認薬状況の比較
(https://www.jpma.or.jp/opir/news/067/02.html)
・日本産業政策研究所;国際共同治験最近の動向
(https://www.jpma.or.jp/opir/news/066/05.html)