先月は、ヒューマンエラーを起こす要因の1つ目「
能力もしくは知識不足」についてお話ししました。
今回は、ヒューマンエラーの2つ目「
錯誤・錯覚」についてお話します。現実には違うことが起こっているのに、人間として誤った解釈をしてしまうことを指します。医療現場では特に「思い込み」が非常に大きな過ちになることがあります。左眼の手術だと思っていたのが右眼の手術であった、山田太郎さんと思っていた方が山口太郎さんであったなど、多くの思い込みが生じる可能性があります。錯覚は初心者よりむしろ経験者に多いのですが、それは錯覚の前提となる疑似的な体験をより多くこなしているからでしょう。
錯誤・錯覚は自分の深層心理の中に深く根付いており、それを完全に消去することは不可能です。いくら気を付けているといっても、ふと油断したすきに過去の体験とすり替わってしまうこともあるでしょう。また、過去の体験をベースとして行動することは何も悪いことではありません。むしろ原因としては、新たな体験が整理されていない状態で受け入れられることで、過去との混線をおこすと考えています。つまり、受け入れ方をより強力にし、整理された状態でインプットできるようにするには、組織的な作業が必要です。
一つは、集中した状態で情報を受け入れることです。他の作業をしながらでは、明らかにインプットの度合いが違います。見るなら見る。聞くなら聞く。読むなら読む。など、その作業に集中することです。テレビを見ている子供に注意してもほとんど聞いていないのと同じです。動線と作業フローをできるだけ簡潔にし、1つの作業に集中させます。また適宜休憩をとるのも重要でしょう。疲労している状態だと、集中力は低下します。定期的な休憩だけでなく、必要に応じた休暇も必要です。
もう一つは、情報の重要度に応じ、順番を付けるとういうことです。実はカルテの情報はどれが重要なのか順番付けがなっていません。特に人の書いたカルテを追っていくのは非常に疲れます。というのも人によって内容の順序や重要度が異なるからです。なので、当院では重要なことは大きな字にする、赤字にするなどの工夫をしています。特に大事な申し送り事項は、書き込む場所やスタイルを統一しています。こうすることにより、汲み取る労力を最低限にし、重要事項の意味付けを強化しています。
スタッフ全員に「気をつけなさい」というだけではストレスがたまるばかりで意味がありません。このようにヒューマンエラーを完全に防ぐことは無理としても、システムを洗練することで、より少ないエラーでオペレーションを行い、快適な職場を作ることが可能です。
次回は、ヒューマンエラーを起こす要因の3つ目「手順違反などのシステム」についてお話ししたいと思います。